ストーリーのあるものづくり
私がお店を始めた頃、「ストーリーのある物作り」みたいなフレーズがよく飛び交っていて、商品だけを売るのでなく、その商品が生まれた背景とか環境をストーリーにしてそれごと売る!みたいな売り方が流行ってるよ、そうした方が良いよ、とよく言われました。
私はなるほど!と思って出来るだけ何でもない商品にもストーリを作っていました。ずいぶん長い間やってきたと思う。
でも、本当にすごいものって、ストーリーなんて聞かなくても自分に響くんだな、と実感したことがあります。
毎年熊本県の水俣市から届く甘夏みかんがあります。たまたま紹介して頂きたどり着いた農家さんでしたが、すごく酸っぱくて、しっかり甘い、力強い丈夫な味!というのが最初の印象でした。そして農薬不使用。皮まで使いたいジェラートにぴったり!!という理由で5年くらい前からずっと注文していました。水俣市といえばあの水俣病の水俣かな、くらいしか思っていませんでした。
去年、生産者さんからみかんと一緒に新聞の切り抜きが届き、あとはメールでやりとりして知りました。そのみかんはまさにその水俣病の患者さんや、汚染された海のせいで漁ができなくなった漁師さんたちが新しい仕事をするのに作り始めたみかんでした。そして、JAなどの反対がありながらも、自分たちも消費者も汚染されない様、農薬不使用にこだわり、みかんの木が病気になり挫折しそうになりながらも作り続けてきたみかんでした。
それを知って、あー、それでこのみかん!とすごく腑に落ちた事を覚えています。
最初に美味しい!があって、そのあとにストーリーがある方がすごいんだな、と思いました。
だから、最近はあんまりステキなストーリーがついてる商品はちょっと勘ぐっています。
大したストーリーがなくても、作文が上手な例えば雑誌や新聞の記者さんなら、すぐにステキなストーリーが書けちゃいます。お店も自分も新聞や雑誌に載せてもらい、何度も記事を書いてもらってるけど、嘘じゃないけど、どうもくすぐったい、いや、褒めすぎ!と思うのはそのせいだな、と思うわけです。
だから、自分がおいしい、と思うものを見つけて、じぶんで紹介して、飾りすぎず、そのまんまで売る、という事を大事にしたいな、と思います。
まあ、そんな特別な商品だけで成り立つというのはとても難しい事なので、ミルクのベースにクッキーを混ぜ込むだけ、のクッキークリームみたいなメニューもやめられないのも現状なのですが…。
一生懸命作ったものを頂いたら、一生懸命作って伝えていきたいな、と思います。